この成功事例を整理すると、
・秘境という独自の資源への着眼
・安定供給を実現するための設備投資
・プレミアム市場を狙ったブランディングと販路戦略
・海外展開と現地浸透の両立
という複数の要素が重なっていることが分かります。
ここから先は、それぞれのポイントを具体的にひも解いていきます。
ブランド成長の過程
1. 創業者の着眼 ― 秘境の水を資源として見いだす
フィジー最大の島、ヴィチレブ島の地下深くには、火山性土壌を通じて自然に濾過された清浄な水脈が存在します。
この「手付かずの自然が育んだ水」というストーリーは、他の地域では再現できない希少性を持っています。
実は、この水源をビジネスの視点で見出したのが、カナダ出身の実業家デヴィッド・ギルモア(David Gilmour)です。
もともとフィジーでホテル開発や不動産事業を手がけていたギルモアは、現地に滞在する中で「火山性土壌を通して自然濾過され、人の手が触れていない地下水脈」の存在を知りました。※
「これは単なる生活用水ではなく、世界に輸出できる“ブランド資源”になる」と直感した彼は、1996年にフィジー政府と99年間の契約を結び、この長期的な枠組みによって水源を確保したとされます。
つまりフィジーウォーターの始まりは、観光やホテル事業を通じてフィジーに関わった実業家が、偶然ではなく「資源発掘の目線」で水に着目したことから生まれたのです。
日常的で“当たり前すぎる存在”である水を、「秘境からの贈り物」に仕立て直した点が、フィジーウォーターの出発点でした。
※ FIJI Water Brings Source Story to Life with ‘Origins’ Campaignより
2. 大胆な設備投資 ― 島で完結する供給体制を構築
FIJI Waterは、採水からボトリング、出荷準備までをすべてフィジー国内で完結させるため、最先端の設備を導入しました。
採水した水をそのまま輸出するのではなく、島の中でボトリングまで済ませる体制を整えることで、「秘境から直接届けられる水」というブランドの信頼性を担保したのです。
では、なぜ小さな島国にこれほど大胆な投資が可能だったのでしょうか。
背景には、創業者デヴィッド・ギルモアの事業経験と資本力があります。
ギルモアはフィジーでホテル開発や不動産事業を手がけており、すでに一定の事業基盤とネットワークを築いていました。
その延長線上で「フィジーの自然資源を活かした新しいビジネス」を構想し、観光産業と並ぶ新たな柱としてボトルウォーター事業を位置づけたのです。
また、1990年代はアメリカを中心にボトルウォーター市場が急成長していた時期。
「水を買う」という文化が一般化し、高級ミネラルウォーター市場も拡大を続けていました。
この市場トレンドを読んでいたことも、大規模な先行投資を後押ししました。
つまり、
・現地で既にビジネスを展開していたことによる資金力とネットワーク
・世界的な市場拡大というタイミングの追い風
・「秘境から直接届ける」というブランディング効果への確信
これらが重なったことで、フィジーの島国に大規模な工場を建設するという一見リスクの大きな判断を、戦略的な投資として実行できたのです。
その結果、「安定供給を可能にする仕組み」自体がブランド価値を高める要素となり、FIJI Waterは単なる輸入飲料ではなく「本当にフィジーから来た特別な水」として消費者に認識されるようになりました。
3. プレミアム戦略 ― ブランドを「憧れの水」に仕立てる
プレミアム市場からのスタート
販売の起点はアメリカ。しかもその流通の第一歩は、ニューヨーク・マンハッタンの名門レストラン「ジャン ジョルジュ」という“特別なシーン”から幕開けました。
こうした特別感を伴うアプローチにより、この製品は「ただの飲料水」ではなく、“憧れの水”としてのポジションを築きました。
ブランディングの工夫
・キャッチコピー:「Untouched by man, until you drink it」
→ 人の手が触れない純粋さを強調
・デザイン:四角いボトル、トロピカルフラワーをあしらったラベル
→ 「南国の楽園」を直感的に伝える視覚的差別化
・セレブリティ戦略:ハリウッド映画などに露出
→ 消費者に「特別感」を浸透させるきっかけに
ブランドストーリーとデザイン、販路戦略が一体となり、フィジーウォーターは世界市場で「高級ミネラルウォーター」の象徴的存在になっていきました。
4. グローバル展開とローカル浸透 ― 二重構造でブランドを強化
現在、FIJI Waterは公式情報によると60か国以上で販売され、アメリカでは輸入ボトルウォーター市場シェアNo.1を獲得していると言います。
同時に、フィジー国内でも空港・スーパー・ホテルなどで広く販売展開がなされています。
「地元の人にも馴染みがある」という状況が、ブランドの信頼性をさらに高めていると考えられます。

この事例から見えるポイント
フィジーウォーターの面白さは、「水」という誰にとっても身近なものを、秘境から採掘し、世界ブランドへと仕立てたことにあります。
その背景を整理すると、次のようなポイントが浮かび上がります。
1. 資源の再発見 ― 当たり前のものを“特別”に変える視点
FIJI Waterは「水」というどこにでもある素材を、“南太平洋の秘境でしか採れない天然資源”として再定義しました。
日常の中では価値を感じにくいものでも、産地や環境、ストーリーを付与することで唯一無二の商品に変わるという点は大きな学びです。
実際、フィジーの水は「火山性土壌を通じて自然に濾過され、人の手が触れないままボトルに詰められる」というストーリーを強調。
この「手付かずの自然」というイメージが、他のミネラルウォーターと一線を画す差別化要素となりました。
2. 供給体制の構築 ― ブランドの信頼を支えるインフラ
秘境から水を届けるには、品質を落とさず安定供給できる仕組みが欠かせません。
フィジーウォーターは、島国内に採水・ボトリング施設を整え、「秘境から直接、世界へ届ける一貫体制」を実現しました。
この大胆な設備投資はコストもリスクも大きいものでしたが、逆にそれがブランドの信頼を支える基盤に。
消費者にとって「本当にフィジーから来た水」という裏付けがあるからこそ、プレミアム価格にも納得感が生まれたといえます。
3. ブランド化とプレミアム展開 ― ストーリー×デザイン×販路の三位一体
FIJI Waterは販売開始時から、日常的な市場ではなく「高級シーン」を狙いました。
・高級ホテルやファーストクラスの機内で提供
・「Untouched by man」という純粋性を伝えるコピー
・南国の花をあしらった四角いボトルデザイン
この三位一体の戦略が、「ただの水」から「憧れの水」へというブランドの飛躍を実現しました。
また、映画やセレブの愛用シーンに登場させることで、自然な形で話題化。広告だけではなく、生活やカルチャーに溶け込む露出を増やしたのも大きな特徴です。
4. グローバル展開とローカル浸透の両立
現在、FIJI Waterは世界60か国以上で販売され、アメリカでは輸入ボトルウォーター市場トップシェアを誇る存在となっています。
特に米国市場においては、EvianやPerrierといった欧州ブランドに肩を並べるポジションを確立し、「高級ミネラルウォーター」の代名詞のひとつになりました。
一方で、フィジー国内でも空港やスーパー、ホテルで気軽に買える存在として流通しています。観光客だけでなく、地元の人々の生活にも組み込まれていることが特徴です。
ここで重要なのは、単なる「安心感」だけではありません。ビジネスの観点から見ると、グローバルとローカルを同時に押さえる二重構造は大きな意味を持ちます。
・ブランドの説得力強化
→ 「地元で飲まれている水」という事実は、観光客にとって商品の信頼性を高め、プレミアム価格の納得感を与える。
・安定した販売基盤の確保
→ 観光シーズンや海外需要に依存せず、ローカル市場からも継続的な収益を得られる仕組み。需要変動リスクを抑える効果がある。
・ブランドストーリーの深化
→ 「現地の文化や生活に根ざしているブランド」という物語は、海外消費者に対しても強い差別化要素となる。単なる輸出品ではなく、“国の象徴的存在”としての価値が生まれる。
このように、FIJI Waterは「世界で売れるブランド」であると同時に、「地元で愛されるブランド」でもあるという両輪を回すことで、事業の持続性とブランド力を高めているのです。

【まとめ】高級ミネラルウォーター成功事例から見ること
FIJI Waterは、身近な「水」という素材を、資源の発見・供給体制の整備・ブランド化・市場戦略の掛け合わせによって、世界的な高級ミネラルウォーターブランドへと育て上げました。
この事例が示すのは、特別な素材がなくても、着眼点・仕組み・ストーリー・展開方法の組み合わせ次第で新しい市場価値を生み出せるということです。
既存の事業や地域資源をビジネスに生かすヒントが、フィジーウォーターの成功には詰まっています。


