商社で生成AI活用が注目される理由とは?

大手商社や商社グループでは、生成AIの活用事例が相次いで公表されています。背景には、商社という業態特有の情報量の多さがあります。
商社は、単に商品を仕入れて販売するだけの企業ではありません。国内外の取引先との交渉、素材・製品の提案、物流・貿易実務、与信管理、契約管理、事業投資、グループ会社の経営支援、新規事業開発など、多様な業務を担っています。
そのため、日々の業務では以下のような情報を扱います。
・商品情報
・素材情報
・価格情報
・顧客情報
・仕入先情報
・販売先情報
・契約書
・提案資料
・市場調査資料
・投資検討資料
・財務情報
・取引履歴
・稟議資料
・社内ナレッジ
・海外拠点やグループ会社の情報
これらの情報は、商社にとって重要な資産です。しかし、情報量が多いほど、必要な情報を探す、整理する、比較する、資料にまとめる、関係者に共有する、といった業務負荷も大きくなります。
また、商社では事業領域が広く、担当者ごとに保有している知見が分散しやすいという特徴もあります。たとえば、ある素材に詳しい担当者、特定業界の顧客課題に詳しい担当者、海外の規制や商習慣に詳しい担当者、投資案件の検討経験が豊富な担当者など、個人に蓄積された知識が業務品質に影響することがあります。
生成AIは、こうした商社の業務と相性が良い技術です。文章の作成、要約、翻訳、検索、分類、比較、レポート作成、問い合わせ対応などに活用できるだけでなく、社内データや業務システムと連携することで、より実務に近い形で判断や提案を支援できる可能性があります。
特に商社では、生成AI活用の公開事例を整理すると、大きく3つの方向に分類できます。1つ目は、会議議事録、メール作成、資料作成、調査、要約、翻訳などを対象とした全社的な業務効率化です。2つ目は、商品提案、素材検索、営業支援、投資候補探索、社内ナレッジ検索、契約・経理文書処理など、商社業務そのものの高度化です。3つ目は、社内で活用した生成AI基盤や業務ノウハウを、グループ会社や外部顧客向けのサービスとして展開する新規事業化です。
つまり、商社の生成AI活用は、単なる業務効率化ではありません。商社が持つ情報、ネットワーク、事業知見、投資先、グループ会社のアセットをどのように再構築し、新しい価値につなげるかが重要になります。
商社における生成AI活用の主な領域

商社における生成AI活用は、さまざまな業務領域に広がっています。主な領域として、以下が挙げられます。
・資料作成、議事録作成、要約、翻訳
・社内ナレッジ検索
・営業提案支援
・商品・素材情報の検索
・顧客問い合わせ対応
・市場調査、競合調査
・事業投資候補の探索
・投資検討資料の作成支援
・契約書、証明書、請求関連書類の読み取り
・経理、財務、税務業務の効率化
・グループ会社向けAI基盤の提供
・外部顧客向け生成AIサービス化
・業界特化型AIサービスの開発
商社で特徴的なのは、生成AIが「汎用業務の効率化」と「商社特有業務の高度化」の両方に使われている点です。Microsoft 365 Copilotのようなツールを使えば、会議内容の要約、メール作成、資料作成など、日常業務の効率化が期待できます。
一方で、社内に蓄積された商品情報、契約情報、取引先情報、投資検討資料、過去の失敗事例などと組み合わせれば、営業提案や投資判断の支援にも活用できます。さらに、商社グループが持つ事業会社や顧客基盤を活用すれば、生成AIを外部向けサービスとして展開することも可能です。
そのため、商社の生成AI活用を考える際には、「何のツールを導入するか」だけではなく、「どの業務プロセスに組み込み、どの事業価値につなげるか」を考える必要があります。

図1:商社における生成AI活用の3段階
大手商社・商社グループの生成AI活用事例
ここでは、大手商社や商社グループの公開情報をもとに、生成AI活用事例を整理します。

図2:大手商社・商社グループの生成AI活用事例マップ
事例① 伊藤忠商事|プラスチック物性検索・提案、事業投資支援
伊藤忠商事は、生成AI活用の取り組みとして、プラスチック物性検索・提案、事業投資支援などの事例を公開しています。プラスチック物性検索・提案では、素材輸入販売の商談において、顧客ニーズに合う商品を迅速に提案するために生成AIを活用しています。
商社の素材営業では、顧客から求められる機能、物性、用途、価格、調達条件などを踏まえて、適切な商品を提案する必要があります。しかし、素材情報や物性情報は膨大であり、担当者の知識や経験に依存しやすい領域です。
生成AIを活用すれば、商品情報や関連データを参照しながら、顧客ニーズに合う候補を探し、商談中の提案スピードを高めることができます。これは、商社の営業提案を「担当者の経験だけに依存するモデル」から、「社内データと生成AIを活用して提案力を高めるモデル」へ変える取り組みといえます。
また、伊藤忠商事は事業投資支援の領域でも生成AIを活用しています。投資先候補の発掘、対象企業の深掘り調査、社内申請など、投資検討に伴う情報収集や資料作成に生成AIを活用しています。 生成AIを活用することで、外部データや社内データを組み合わせながら、投資検討の初動や資料作成を効率化できる可能性があります。
事例② 住友商事|Microsoft 365 Copilotの全社活用
住友商事は、海外グループ会社を含む約9,000人がMicrosoft 365 Copilotを一斉利用開始したことを公開しています。また、月間アクティブユーザーが高い水準に達し、年間で大きなコスト削減効果が出ていることも紹介されています。
この事例は、商社における生成AI活用が、一部部署の実証実験にとどまらず、全社展開・定着フェーズに入っていることを示しています。商社では、会議、メール、資料作成、調査、社内調整、海外拠点とのやり取りなど、情報処理を伴う業務が多く発生します。
Microsoft 365 Copilotのように、日常的に使うOfficeツールに組み込まれた生成AIは、現場の業務に入り込みやすい特徴があります。会議内容の要約、議事録作成、メール文面の作成、資料のたたき台作成、長文資料の要約、海外とのコミュニケーション支援など、日常業務の効率化に寄与します。
一方で、生成AIを全社展開するうえでは、導入しただけでは不十分です。社員が使い続けるための研修、活用事例の共有、利用ルールの整備、セキュリティ対応、部門ごとのユースケース設計が必要になります。
事例③ 丸紅|Marubeni Chatbotによる業務削減と外部サービス化
丸紅は、安全な環境で生成AIを利用できる社内サービスとして「Marubeni Chatbot」を展開しています。2024年のリリースで、Marubeni Chatbotにより丸紅単体で年換算10万時間の業務削減を実現したと公表しています。
その後、2025年の統合報告書では、登録者がグループ全体で13,000名以上となり、年換算90万時間の業務削減効果があったとされています。このように、丸紅の生成AI活用は、社内向けチャットボットの導入から、グループ全体への展開、業務削減効果の拡大へと進んでいます。
商社では、社外秘情報や取引先情報、契約情報、投資関連情報など、外部の生成AIサービスにそのまま入力しにくい情報を多く扱います。そのため、生成AIを業務に活用するには、安全に利用できる社内環境の整備が重要です。
また、丸紅グループの丸紅I-DIGIOホールディングスは、生成AIサービス「I-DIGIO next-AI series Chatbotサービス」の提供も開始しています。これは、社内で得た生成AI活用の知見を、外部向けサービスへ展開する動きとして見ることができます。
事例④ 三菱商事|生成AIを活用した経理業務改革の実証実験
三菱商事は、PwC税理士法人の支援を受け、生成AIを活用した経理業務改革の実証実験を実施しています。この実証実験では、保証債務に関する契約書や残高証明書からの情報抽出、支払調書の提出要否判定などに生成AIを活用し、高い精度が確認されています。
この事例は、生成AIが文章作成や要約だけでなく、実務プロセスにおける文書処理にも活用できることを示しています。商社の経理・財務・税務業務では、取引先や海外拠点から届くさまざまな書類を確認し、必要な情報を抽出し、台帳や申告関連業務に反映する必要があります。
書類の形式や言語が統一されていない場合、担当者が一つひとつ確認する負荷は大きくなります。生成AIを活用すれば、こうした非定型文書の読み取り、情報抽出、分類、判定を支援できる可能性があります。
商社では、営業・投資・事業開発といったフロント業務に注目が集まりがちですが、経理、財務、法務、審査、貿易実務などのバックオフィスにも膨大な文書処理があります。生成AIを活用することで、担当者が、より高度な判断や確認を要する業務に集中できるようになります。
事例⑤ 三井物産|不動産業務効率化プラットフォーム「AIDeeD」
三井物産は、生成AIを活用した不動産業務効率化プラットフォーム「AIDeeD」を開発しています。AIDeeDは、不動産物件に関する書類整理、保有期間中のプロジェクトマネジメント、売却時の資料作成などを支援するプラットフォームです。
不動産業務では、設計図書、行政確認書類、設備点検報告書、契約関連資料など、多くの専門文書を扱います。これらの書類は、物件取得、運用、売却、デューデリジェンス、リスク確認などに必要ですが、ファイルの分類、命名、整理、抜け漏れ確認には大きな手間がかかります。
AIDeeDでは、生成AIを活用して、専門文書の自動命名、分類、整理、書類の抜け漏れ確認、リスク事項の抽出などを支援することが示されています。三井物産グループ会社における先行利用では、約200ファイルある売却予定物件の場合、従来400分程度かけていたファイル命名・フォルダ整理業務の90%超を削減できたとされています。
この事例は、商社が生成AIを活用して、特定業界の業務課題に対するサービスを作る動きとして注目できます。総合商社が持つ事業領域や投資先、業界知見を活かせば、生成AIを活用した業界特化型の新規事業を生み出すことができます。
事例⑥ 双日テックイノベーション|Natic AI-Navi
双日テックイノベーションは、企業が生成AIを導入し、実際の業務で継続的に利用できる状態を作るための支援サービス「Natic AI-Navi」を展開しています。AI環境の整備だけでなく、活用テーマの設計や社員教育など、社内定着に必要な取り組みを幅広く支援する点が特徴です。
この事例は、商社グループが生成AIを「使う側」だけでなく、「導入・定着を支援する側」にもなっている点が特徴です。企業では、生成AIを導入したものの、要約、翻訳、文章作成などの基本的な使い方にとどまり、業務プロセスの変革まで進まないケースがあります。
そのような企業に対して、業務に合わせたユースケース設計、AI活用基盤の構築、社員教育、活用定着支援を提供することは、生成AI時代の新しい支援サービスになり得ます。商社グループは、多様な業界や業務に接点を持っているため、生成AI導入支援を業界別・業務別に展開できる可能性があります。
生成AIだけではない、商社系企業のAI活用・新規事業事例

ここまで紹介した事例は、主に生成AIを活用した取り組みです。一方で、商社のAI活用は生成AIに限られません。商社では、生成AIに限らず、AIやコンピュータビジョン、ロボティクスを活用した新規事業も進められています。
ここでは、生成AIそのものではありませんが、商社がAI技術を活用して新規事業を創出する例として整理します。
事例⑦住友商事・米国Dexterity |ロボットAIによる物流課題解決
住友商事と米国Dexterity社は、合弁会社「Dexterity-SC Japan」を設立し、ロボットAIを活用した物流課題の解決に取り組んでいます。同社は、トラックへの荷積み自動化など、物流現場の人手不足や作業負荷の課題に対するソリューションを目指しています。
これは生成AIの事例ではありません。しかし、商社が海外スタートアップや先端技術と連携し、日本国内の産業課題を解決する新規事業を作るという点で、商社らしいAI活用事例といえます。
商社は、自社でAI技術を一から開発するだけでなく、有望な技術を持つ企業と連携し、市場開拓、顧客開拓、事業化、運用設計を担うことができます。商社の強みは、技術そのものだけではなく、技術をどの市場に、どの顧客に、どの事業モデルで展開するかを設計する点にあります。
大手商社・商社グループの生成AI活用事例まとめ
ここまでの事例を整理すると、商社における生成AI活用は以下のように分類できます。
| 企業 | 主な活用領域 | 事例のポイント |
| 伊藤忠商事 | 営業提案・事業投資 | プラスチック物性検索・提案、投資支援 |
| 住友商事 | 全社業務改革 | Microsoft 365 Copilotを全社活用 |
| 丸紅 | 社内AI基盤・外部展開 | Marubeni Chatbot、外部サービス化 |
| 三菱商事 | 経理業務改革 | 契約書・証明書の情報抽出、判定支援 |
| 三井物産 | 業界特化サービス | 不動産業務効率化プラットフォーム「AIDeeD」 |
| 双日テックイノベーション | 導入支援サービス | 「Natic AI-Navi」で活用・定着を支援 |
| 住友商事・米国Dexterity | 参考:AI新規事業 | ロボットAIで物流課題解決(※生成AIではない) |
このように見ると、商社のAI活用は単なる効率化にとどまりません。全社の生産性向上、商社業務の高度化、業界特化型サービス、新規事業創出まで広がっています。
商社の生成AI活用から見える新規事業の方向性

方向性① 社内ナレッジを活用した営業・提案支援
商社には、商品情報、顧客情報、商談履歴、価格情報、技術資料、過去の提案書など、多くの営業資産があります。生成AIを活用すれば、営業担当者が自然文で質問し、必要な商品情報、提案事例、顧客課題、類似案件を探せるようになります。これは、商社の営業力を属人的なものから、組織的な提案力へ変えていく取り組みです。
方向性② 事業投資・M&A検討の初動支援
商社では、成長領域への投資、新規事業開発、事業会社の買収、スタートアップ連携などが重要です。生成AIを活用すれば、投資候補企業のリストアップ、対象業界の市場動向整理、競合比較、対象企業の強み・リスク整理、社内稟議資料のたたき台作成などを効率化できます。もちろん投資判断を生成AIに任せることはできませんが、調査や資料作成の初動を効率化することで、担当者は仮説検証、経営判断、交渉、事業化設計により多くの時間を使えるようになります。
方向性③ バックオフィスの非定型文書処理
商社では、契約書、証明書、請求書、残高証明書、支払関連書類、貿易書類、税務関連資料など、多くの文書を扱います。生成AIは、こうした非定型文書の読み取り、分類、要約、情報抽出に活用できます。担当者は単純な転記や確認作業から解放され、例外判断やリスク確認に集中しやすくなります。
方向性④ 業界特化型サービスへの展開
商社は、製造、化学、エネルギー、食料、金属、機械、不動産、物流、金融、ヘルスケアなど、多様な業界に接点を持っています。そのため、生成AIを活用して、不動産文書の整理・リスク抽出、素材・部材の検索・提案、貿易書類の確認、物流問い合わせ対応、顧客向け市場レポート自動生成など、特定業界の業務課題を解決するサービスを作ることができます。
方向性⑤ 社内活用ノウハウの外販・グループ展開
生成AIを社内で活用する中で、業務効率化、セキュリティ設計、活用定着、ユースケース設計、人材育成などのノウハウが蓄積されます。これらのノウハウは、グループ会社や外部企業向けの支援サービスとして展開できる可能性があります。
商社で生成AI活用が進まない・成果につながらない原因は?

原因① 要約・翻訳・文章作成だけで止まってしまう
生成AIの導入初期には、要約、翻訳、メール作成、資料のたたき台作成などから利用し始めるケースが一般的です。これらは重要な使い方ですが、それだけでは商社の業務変革や新規事業にはつながりにくい場合があります。商社で生成AIの価値を高めるには、営業提案、投資検討、社内ナレッジ活用、文書処理、業界特化サービスなど、業務プロセスそのものに組み込む必要があります。
原因② 社内データが整理されていない
生成AIを業務に活用するには、参照するデータの質が重要です。しかし、資料やデータが部門ごとに分散している、ファイル名や保管場所が統一されていない、過去資料を検索・再利用しにくい、といった課題が生じがちです。生成AI活用の前提として、データの棚卸し、分類、アクセス権限、品質管理、更新ルールの整備が必要です。
原因③ セキュリティ・機密情報の扱いが曖昧
商社では、取引先情報、価格情報、契約情報、投資関連情報、未公開案件など、機密性の高い情報を多く扱います。外部サービスに入力してよい情報、入力してはいけない情報、社内向け生成AI基盤で扱える情報、承認が必要な業務などを明確にする必要があります。
原因④ 業務プロセスに組み込まれていない
生成AIは、単独のチャットツールとして導入しただけでは、日常業務に定着しにくい場合があります。営業提案支援であればCRM、商品データベース、過去提案資料、顧客情報との連携が重要です。経理業務であれば文書管理システム、会計システム、承認フローとの連携が必要になります。
原因⑤ 効果測定の指標が曖昧
「便利になった」「時間が短くなった気がする」だけでは、追加投資や他部門への横展開の可否を判断しにくくなります。資料作成時間、問い合わせ対応時間、文書確認件数、回答精度、利用率、業務削減時間、提案作成件数、投資検討の初動リードタイムなど、指標を明確にする必要があります。
商社が生成AIを新規事業につなげるための考え方

考え方① 商社が持つ情報資産を棚卸しする
まず重要なのは、商社が持つ情報資産を棚卸しすることです。顧客ニーズ、商品・素材情報、仕入先情報、販売先情報、価格情報、物流情報、契約情報、業界レポート、投資検討資料、過去の成功・失敗事例、グループ会社の業務データなどを整理し、どの業務に活用できるかを検討することが出発点になります。
考え方② 顧客課題からユースケースを設計する
生成AI活用では、技術起点ではなく顧客課題起点で考えることが重要です。顧客が、商品選定、在庫管理、調達リスクへの対応、契約・書類処理、市場情報の整理、サプライヤー探索、業務標準化などのうち、どの課題を抱えているのかを明確にしたうえで、生成AIの活用方法を考えます。
考え方③ 社内業務で検証し、外部サービス化を検討する
商社では、まず社内やグループ会社で生成AI活用を検証し、その後に外部サービス化を検討する流れが有効です。社内で商品検索AIや文書処理AIに成果が出た場合、同様の課題を持つ外部企業向けサービスに展開できる可能性があります。
考え方④ 生成AIと既存事業の接点を明確にする
生成AIを新規事業化する際には、既存の顧客基盤、業界知見、取引ネットワーク、投資先、グループ会社との接点を活用できる領域を見極めることが重要です。既存顧客に対して、AIを活用した提案支援、在庫最適化、調達リスク分析、文書処理支援を提供できれば、既存事業の付加価値を高められます。
考え方⑤ PoCで終わらせず、収益モデルまで設計する
生成AI活用は、PoCで終わりやすいテーマです。新規事業として成立させるには、月額利用料、初期導入費、運用支援費、ユーザー数課金、処理件数課金、成果報酬、SaaS利用料、データ連携・カスタマイズ費など、誰が何に対価を支払うのかを明確にする必要があります。
【注意事項】商社の生成AI活用で気をつけるべきこと

注意① 生成AIと従来型AIを混同しない
生成AIは、文章や画像などの生成に加え、要約、情報抽出、分類、対話形式での回答作成などに活用できる技術です。一方で、需要予測、画像解析、ロボット制御、異常検知、最適化などは、従来型AIや機械学習、ロボティクス技術が中心になる場合があります。生成AIの事例と、生成AI以外のAI活用事例を分けて考えることが重要です。
注意② 生成AI導入を目的化しない
生成AIはあくまで手段です。重要なのは、どの業務を変えるのか、誰の負担を減らすのか、どの判断を支援するのか、どの顧客価値を高めるのかを明確にすることです。
注意③ 社内データの品質と権限管理を軽視しない
古い情報、誤った情報、重複した情報、権限上参照してはいけない情報が混在していると、生成AIの回答品質や安全性に影響します。データの棚卸し、分類、アクセス権限、更新ルール、責任部署を整備することが必要です。
注意④ 現場の業務フローに合わせる
生成AIは、現場の業務フローに合っていなければ使われません。商社では部門ごとに業務プロセスや利用システムが異なるため、一律のツール導入だけでなく、業務ごとのユースケース設計が重要です。
注意⑤ 正確性・責任範囲を明確にする
生成AIは、もっともらしい文章を作成できますが、内容が常に正しいとは限りません。商社業務では、契約、投資、財務、法務、顧客提案など、判断ミスが大きな影響を与える業務もあります。生成AIの回答を最終判断として扱うのではなく、人が確認する前提で運用する必要があります。
注意⑥ PoCの成功基準を事前に決める
PoCを行う際には、対象業務、改善指標、目標精度、削減時間、現場定着、本番導入条件、横展開できる部門、事業化する場合の収益モデルなどを事前に決めておく必要があります。
【まとめ】商社の生成AI活用は、業務効率化から新規事業化へ広がる

商社における生成AI活用は、すでに多様な領域に広がっています。大手商社では、Microsoft 365 Copilotの全社活用、社内向け生成AIチャットボット、素材情報の検索・提案、事業投資支援、経理業務の文書処理、不動産文書の整理・構造化、生成AI導入支援サービスなど、さまざまな取り組みが進んでいます。
これらの事例から見えるのは、生成AI活用が単なる業務効率化にとどまらないということです。商社は、商品情報、顧客接点、取引データ、社内ナレッジ、事業投資の知見、グループ会社の業務データなど、多くの情報資産を持っています。
生成AIは、これらの情報資産を活用し、営業提案、投資判断、文書処理、社内ナレッジ共有、業界特化型サービスの開発を支援する手段になります。
商社における生成AI活用は、業務効率化、業務高度化、新規事業化の3段階で考えることが重要です。まずは、資料作成、要約、翻訳、議事録作成などの業務効率化から始めることができます。次に、営業提案、商品検索、投資検討、文書処理、社内ナレッジ検索など、商社特有の業務に組み込むことで、業務高度化につながります。さらに、社内やグループ会社で得た知見をもとに、業界特化型サービスや生成AI導入支援サービスとして外部展開することで、新規事業化の可能性も広がります。
今後、商社が生成AIを活用するうえでは、「AIを導入すること」ではなく、「商社が持つ情報・ネットワーク・事業知見をどのように新しい価値に変えるか」が重要になります。
より効果的に生成AI活用を進めるためには?

商社の生成AI活用には、大きな可能性があります。しかし、社内だけで検討していると、生成AIの活用が要約、翻訳、資料作成にとどまる、商社業務に合ったユースケースを設計できない、社内データが整理されておらず実務で使いにくい、PoCはできても本格導入や横展開につながらない、といった課題に直面しやすくなります。
特に商社では、事業領域が広く、部門ごとに業務やデータの持ち方が異なります。そのため、生成AI活用を進める際には、単にツールを導入するのではなく、業務課題、社内データ、顧客課題、既存事業との接点、新規事業化の可能性を構造的に整理することが重要です。
ベルテクス・パートナーズでは、新規事業のテーマ探索、顧客課題の整理、市場機会の分析、ビジネスモデル設計、PoC設計、事業化に向けた実行支援まで一貫して支援しています。
商社においても、生成AIを単なる業務効率化で終わらせず、営業提案、投資検討、文書処理、社内ナレッジ活用、業界特化型サービス、新規事業開発につなげるためには、業務と事業の両面から活用テーマを整理することが重要です。
生成AI活用を検討しているものの、どの業務から始めればよいかわからない、PoC後の事業化につながらない、既存事業との接点を見つけたい、商社ならではの新規事業テーマを検討したい場合は、まずは自社の情報資産と顧客課題を整理することから始めることが有効です。
参考資料
・伊藤忠商事「生成AI活用」:プラスチック物性検索・提案、事業投資支援など、伊藤忠商事における生成AI活用の公開情報を参照。
・住友商事「コスト削減効果は年間約12億。住商の『生成AI活用』最前線」:Microsoft 365 Copilotの全社活用、利用状況、コスト削減効果に関する公開情報を参照。
・丸紅「生成AIサービス『I-DIGIO next-AI series Chatbotサービス』の提供開始について」:Marubeni Chatbotの活用、業務削減効果、丸紅グループにおける生成AIサービス展開に関する公開情報を参照。
・丸紅「統合報告書2025」:Marubeni Chatbotの登録者数、グループ全体での活用、年換算90万時間の業務削減効果に関する公開情報を参照。
・PwC税理士法人「三菱商事の生成AIを活用した経理業務改革の実証実験を支援」:三菱商事における保証債務関連文書の情報抽出、支払調書の提出要否判定など、経理業務改革の実証実験に関する公開情報を参照。
・三井物産「生成AIを活用した不動産業務効率化プラットフォーム『AIDeeD』を開発」:不動産関連文書の整理・分類・リスク抽出、約200ファイルの整理作業における削減効果など、生成AIを活用した業界特化型サービスに関する公開情報を参照。
・双日テックイノベーション「Natic AI-Navi」:企業の生成AI活用を企画から運用・定着まで支援するサービスに関する公開情報を参照。
・住友商事「トラックへの『荷積み』が自動に?住商×新世代ロボットAIの物流革命」:住友商事とDexterity社によるロボットAIを活用した物流課題解決の取り組みに関する公開情報を参照。



