| 結論:Amazonのレジなし店舗「Just Walk Out」は、大型スーパーにも展開された一方、空港やスタジアムのように時間制約が強く、行列が購入放棄につながりやすい場所で価値を発揮しやすいと考えられます。新規事業では、技術そのものよりも、「どの顧客の、どの瞬間の不便を、どの業態で解決するか」を見極めることが重要です。 |
■ この記事がおすすめな人
・新規事業・経営企画・DX推進を担当し、海外の先行事例を自社の成長戦略に活かしたい方。
・AIやIT・設備投資を、業務効率化にとどめず、顧客体験や新たな収益機会の創出につなげたい方。
・PoCや実証実験後の事業化に向け、技術と顧客課題・利用シーンの相性を見極めたい方。
Amazonのレジなし店舗は、なぜスーパーより空港・スタジアムで広がるのか?

AmazonのJust Walk Outは、商品を手に取り、そのまま店を出るだけで決済が完了するチェックアウトフリー技術です。Amazonはこの技術をAmazon GoやAmazon Freshなどの自社小売店舗で展開してきました。
ただし、Amazonは2024年、大型食料品店では顧客がDash Cartを好む傾向があるとして、Amazon FreshへのDash Cart展開を進める方針を説明しました。大型スーパーでは、レジ待ちの短縮に加えて、買い物中の合計金額、割引、予算、商品比較を確認できることが重要になりやすいためです。[1]
一方、Just Walk Outは空港、スタジアム、大学、病院などの第三者施設(Amazon以外が運営する施設)で展開されています。これらの場所では、待ち時間が単なる不満ではなく、「買いたいが、並ぶ時間がない」という購入放棄につながりやすい点に特徴があります。[1][4]
本記事では、Amazonの実店舗戦略全体とJust Walk Out技術の展開を同一視せず、どのような購買シーンでレジなし技術が価値を出しやすいのか、という観点から考察します。
Amazon Just Walk Outとは?レジなし店舗の仕組み

Just Walk Outは、利用者がクレジットカード、モバイル決済、QRコードなどで入店し、商品を選んで退店すると、自動で決済が行われる仕組みです。商品を棚へ戻した場合は購入対象から外れ、持ち出した商品だけが決済されます。
Amazonは、コンピュータビジョン、物体認識、センサー、機械学習モデルなどを組み合わせ、どの商品が選ばれたかを認識すると説明しています。従来のように、商品を一つずつレジでスキャンする必要がありません。[3]
利用者にとっては、レジ待ちを減らし、短時間で買い物を終えられることが主な利点です。運営側にとっては、混雑緩和、売場導線の見直し、購買データの取得、補充業務の最適化などが検討対象になります。

Amazonは最初、スーパーにもレジなし店舗を広げた

Amazonは2018年にAmazon Goを開始し、飲料、軽食、サンドイッチ、スナック、日用品などを短時間で購入できる小型店舗を展開しました。その後、より大きな食品スーパーであるAmazon Freshにもチェックアウトフリー技術を広げました。[3]
しかし、大型食料品店では、顧客がレジ待ちを避けたいだけでなく、買い物中に合計金額、予算、割引、購入内容を確認したいというニーズも持ちます。Amazonは2024年、大型食料品店ではDash Cartを好む顧客が多いと説明し、Amazon FreshへのDash Cart(商品を入れると画面上で価格・合計金額・割引額などを確認でき、レジ待ちも省けるスマートショッピングカート)展開を進める方針を示しました。[1]
Amazonは2026年、Amazon GoおよびAmazon FreshのAmazonブランド実店舗フォーマットから撤退し、一部の立地をWhole Foods Market店舗へ転換する方針を公表しました。Amazonブランドの実店舗については、大規模展開に必要な顧客体験と経済モデルを十分に確立できていないと説明しています。[2]
この経緯は、レジなし技術自体に価値がないことを示すものではありません。むしろ、同じ技術であっても、顧客の購買行動、利用シーン、店舗規模によって最適な形が異なることを示しています。

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レジなし店舗は、時間制約が強い場所で価値を発揮しやすい

空港、スタジアム、アリーナ、大学、病院、イベント会場には、顧客にとっての時間価値が高いという共通点があります。
スタジアムでは試合を見逃したくない、空港では搭乗時刻に遅れたくない、ライブ会場では演目を見逃したくない、といった制約があります。こうした場面では、レジ待ちは単なる不満ではなく、購入を断念する理由になります。
したがって、Just Walk Outの価値は、会計作業の自動化そのものよりも、短時間での購買を完了させ、行列による購入放棄を減らす可能性があります。少数の商品を素早く購入する「目的が明確な買い物」との相性が良いと考えられます。[1]
なぜスタジアムとレジなし店舗は相性が良いのか?

理由① 試合中に「並ぶ時間」が大きな機会損失になる
たとえば、野球のスタジアムでは、試合開始前、イニング間、試合終盤などに売店の利用が集中します。列が長いと、観客は試合を見逃したくない、席を長く離れたくないと考え、購入を諦める場合があります。
レジなし店舗は、観客が短時間で飲食物やグッズを購入し、観戦へ戻ることを支援します。行列を減らすことは、顧客満足度だけでなく、混雑時間帯の販売機会を確保する観点でも意味があります。
理由② 売場面積より「単位時間あたりの処理能力」が重要
スタジアムでは、広い店舗をつくることより、限られたスペースで短時間にどれだけ多くの顧客を処理できるかが重要です。通常の売店ではレジ待機列が売場を圧迫します。
レジなし店舗では、レジカウンターや待機列に使っていたスペースを、商品棚、冷蔵ケース、導線、受け渡しスペースなどに活用しやすくなります。これにより、売場の処理能力を高める余地があります。
理由③ 人を減らすのではなく、接客・補充・調理へ再配置できる
レジなし店舗でも、商品の補充、調理、清掃、酒類販売時の年齢確認、利用案内、トラブル対応などにはスタッフが必要です。
ポイントは、レジでのスキャン・会計作業に集中していた人員を、商品補充、フード・ドリンクの調理、来場者への案内、年齢確認、混雑時の導線整理など、より付加価値の高い業務へ再配置できる可能性があることです。
理由④ スタジアム全体の運営データを得られる
購入時間、商品、販売場所、売上のピーク、補充頻度などを把握できれば、店舗単体だけでなく、スタジアム全体の運営改善にも活用できます。
たとえば、需要が集中する時間帯、エリアごとに売れる商品、補充スタッフの配置、試合開始前と試合中の商品構成、スポンサー施策と購買の連動などを検討できます。
スタジアムでの導入事例

事例① MLBシカゴ・カブスの本拠地、Wrigley Field
MLBシカゴ・カブスの本拠地であるWrigley Fieldでは、Amazon Just Walk Out技術を活用したセルフサービス型売店が導入されています。
カブス公開情報では、Just Walk Out対応の売店として、Chicago Dogs、Left Field Classics、Right Field Classics、Sheffield MarketなどがWrigley Fieldへ導入されていることが確認できます。
観客はクレジットカードで入店し、飲食物を選んだ後、通常のレジを通らずに退出できます。[5]
この事例では、レジなし技術を単なる省人化の仕組みとしてではなく、「試合を見逃したくない」という観客の時間制約に対応し、混雑時の購入機会を確保する仕組みとして捉えることができます。
事例② SeattleのLumen Field
Lumen Fieldは、NFLシアトル・シーホークスとMLSシアトル・サウンダーズの本拠地です。Just Walk Out側の公開情報では、同施設のコンセッションおよび物販店舗において、顧客処理能力が32%増、1試合当たりの取引数が38%増、1試合当たりの売上が47%増と紹介されています。[6]
この数値はJust Walk Out側の公開値であり、他会場にそのまま当てはまるものではありません。ただし、短時間に多くの来場者が売店へ向かうスタジアムでは、処理能力の向上が売上機会につながり得ることを示す事例です。
事例③ 新Nissan Stadium
NFLテネシー・タイタンズは、2027年開業予定の新Nissan Stadiumで、40店を超えるレジなし売店を導入する計画があると報じられています。[7]
この事例は、レジなし店舗が一部の実験的な売店ではなく、スタジアム全体の飲食・物販体験を構成する要素として検討されていることを示します。
なぜ空港とレジなし店舗は相性が良いのか?

理由① 搭乗時刻があるため、待ち時間が購買放棄につながる
空港利用者は、保安検査、搭乗口までの移動、出国手続き、搭乗開始時刻など、多くの時間制約を抱えています。売店に行っても列が長ければ、買い物を諦めることがあります。
搭乗直前の旅行者にとって、コーヒー、水、軽食、スナック、旅行用品などを数分で購入できることには大きな価値があります。
理由② 目的買いが多く、商品選択が比較的シンプル
空港の売店では、水、コーヒー、サンドイッチ、スナック、雑誌、充電器、イヤホン、旅行用品、土産品など、「必要なものを短時間で買う」行動が中心になりやすいと考えられます。
大型スーパーのように、多数の商品を比較しながら長時間買い物をする場面よりも、ウォークスルー型のレジなし店舗と相性が良い場面があります。
理由③ 長時間営業を支えるオペレーションを設計しやすい
空港は早朝便、深夜便、乗り継ぎ客などに対応するため、長時間の営業体制が求められます。レジ業務を簡略化できれば、限られたスタッフの配置を、補充、案内、年齢確認、保安・衛生対応などへ振り分ける余地が生まれます。
ここでも、完全無人化を目指すというより、必要な人員をどの業務に置けば顧客体験と運営品質を高められるか、という視点が重要になります。
空港での導入事例

Just Walk Outは米国の複数空港で導入されています。空港での活用は、レジをなくすことそのものより、搭乗前の限られた時間に旅行者が必要な商品を購入できる状態をつくることに主眼があります。
以下は、Just Walk Out公式のロケーション一覧に掲載されている主な空港事例です。店舗名・設置場所は2026年6月29日時点の公開情報であり、営業状況やターミナルは変更される場合があります。[4]

Amazonはなぜ「スーパー」より「空港・スタジアム」で展開しているのか?

AmazonのJust Walk Outの展開を見ると、技術の価値は業態によって異なることがわかります。大型スーパーでは、顧客が価格、特売、予算、商品比較、まとめ買いを重視しやすい一方、空港やスタジアムでは、短時間で買えることがより大きな価値になりやすいと考えられます。

Amazonの事例から学べる、新規事業の見極め方

Amazon Just Walk Outの事例は、レジなし店舗の導入事例としてだけでなく、新規事業における市場選定や事業仮説の見極め方を考えるうえでも参考になります。
技術が優れているかだけではなく、その技術が、どの顧客の、どの瞬間の不便を、どの程度強く解決できるのかを見極めることが重要です。
学び① 技術の価値は、導入先によって大きく変わる
AmazonはJust Walk Outを大型スーパーにも展開しましたが、大型スーパーでは、レジ待ち回避に加えて、買い物中の価格確認、予算管理、商品比較、割引確認も求められやすいことがわかりました。
一方で、空港やスタジアムでは、短時間で購入できること自体の価値が高くなります。同じ技術であっても、利用シーンや顧客行動が変われば、提供価値も変わります。
新規事業では、「この技術は何に使えるか」ではなく、「この技術が最も強く価値を出す場面はどこか」を考えることが重要です。
学び② 顧客が「我慢している不便」ではなく「行動を変えてしまうペイン」に注目する
新規事業を考える際には、顧客が不便を感じているかだけでは不十分です。その不便によって、顧客が本来取りたかった行動を諦めたり、別の行動を選んだりしているかを確認する必要があります。
空港やスタジアムにおけるレジ待ちでは、利用者は搭乗時間に遅れたくない、試合を見逃したくないと考えます。その結果、列が長ければ「買いたいが、買わない」という行動が起こり得ます。これは待ち時間への不満ではなく、時間制約によって顧客の行動そのものが変わってしまうペインです。
欲しいものがあるのに購入を諦めている、手続きが面倒で後回しや放置が発生している、比較や確認に時間がかかり意思決定が止まっている、といった行動変化には新規事業の機会が隠れている場合があります。
学び③ 最初の市場で伸びなくても、技術や事業仮説をすぐに捨てない
当初想定した市場で十分な成果が出なかったとしても、技術や事業アイデアそのものに価値がないとは限りません。見直すべきなのは、顧客ターゲット、利用シーン、顧客課題、価格設定、収益モデル、導入コストに見合う価値などです。
Amazonの事例は、事業の不調を「技術の失敗」と捉えるのではなく、市場・顧客・利用シーンとの相性として再検証する重要性を示しています。
学び④ 単一の効果だけで投資判断をしない
新規事業や新技術の導入では、「人件費を削減できるか」「工数を減らせるか」といった一つの効果だけで投資判断をしがちです。
しかし、空港やスタジアムでJust Walk Outが価値を出し得る背景には、行列による購買放棄の減少、混雑時間帯の販売機会の確保、売場の処理能力向上、スタッフ配置の最適化、顧客体験の改善、購買データの活用など、複数の効果があります。
投資判断では、売上・利用率、顧客離脱、業務品質、人材再配置、既存事業との相乗効果、データを起点とした次の収益機会、他部門・他拠点への横展開などを組み合わせて評価する必要があります。
学び⑤ PoCでは「技術が動くか」ではなく「どの条件で価値が最大化するか」を検証する
PoCでは、技術が正常に動くか、システムが接続できるかといった確認に偏りがちです。しかし、事業化に向けて重要なのは、どの条件なら顧客価値と収益性が高まるかを確かめることです。
レジなし店舗であれば、行列が発生する時間帯、購買放棄が起きる場所、顧客が購入を諦める待ち時間、導入後の購入率・客単価・処理能力、スタッフ再配置の可能性、投資回収期間などを検証できます。

| 関連記事:新規事業アイデアを海外から学ぶ方法海外事例や技術トレンドを、自社の顧客課題と事業機会に変換する際の考え方を確認できます。 |

IT・設備投資による効率化を進める際に陥りやすいこと

注意① 一部の業務だけを速くしても、顧客体験全体が良くなるとは限らない
システムや設備によって特定の工程を速くできても、入店、商品選択、受け取り、問い合わせ、返品、案内など、別の工程に不便が残っていれば、顧客体験全体は改善しません。顧客や現場の一連の行動の中で、本当のボトルネックがどこにあるのかを見極める必要があります。
注意② コスト削減だけで投資効果を判断しない
IT・設備投資の効果は、工数削減だけにとどまりません。売上機会の拡大、顧客離脱の抑制、サービス品質の向上、待ち時間や手戻りの削減、人材再配置、データ活用による継続改善、他拠点への横展開などを含めて評価することが重要です。
注意③ 顧客課題より「導入できる技術」から考えてしまう
新しい技術が登場すると、「何に使えるか」「どこへ導入できるか」から検討を始めがちです。しかし、技術を導入すること自体は目的ではありません。顧客や現場がどのような不便を感じ、その不便によってどの行動を諦めているのかを先に把握する必要があります。
注意④ PoCで「技術が動くこと」だけを確認してしまう
PoCでは、技術の性能だけでなく、顧客が利用するか、利用頻度が上がるか、売上や品質が変わるか、現場が継続運用できるかを確認することが重要です。顧客価値、収益性、運用負荷、例外対応、拡張性までを検証対象に含める必要があります。
注意⑤ 例外対応や現場運用を後回しにする
通常の業務フローが効率化できても、決済エラー、問い合わせ、返品、障害時対応、年齢確認、商品補充、データ修正、顧客案内といった例外対応は残ります。導入後の定着を妨げないよう、例外時に誰が何を判断し、どのように顧客対応するのかまで設計しておくことが重要です。
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【まとめ】新規事業では、技術と顧客課題・業態の相性を見極めることが重要

AmazonのJust Walk Outは、すべての小売業態で同じように価値を発揮する技術ではありません。大型食品スーパーでは、価格確認、予算管理、商品比較といった購買体験が重視されやすい一方、空港やスタジアムでは、短時間で購入できること自体が顧客価値になりやすいと考えられます。
新規事業では、技術の新しさ、話題性、導入のしやすさだけで判断するのではなく、顧客がどの瞬間に不便を感じ、その不便によってどのような行動を諦めているのかを把握する必要があります。
技術と顧客課題、利用シーン、収益構造の相性を見極めることは、事業化の可能性を高める一つの要素になります。Amazonの事例は、技術を広く展開することよりも、最も強い顧客不便が存在する業態を見つけることの重要性を示しています。
より効果的に新規事業を検討するためには?
海外事例や新技術を見つけた際、「自社でも導入できるか」「この技術を使って何ができるか」と考えがちです。しかし、技術導入を起点に考えるだけでは、PoCで終わったり、十分な収益性が出なかったりすることがあります。
大切なのは、顧客が強く感じている不便、既存の解決策では解消できない課題、自社が持つ顧客基盤や運営ノウハウとの接点を整理することです。
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参考資料
本文中の事実情報は、主に以下の企業・施設の公開情報を参照しています。アクセス日:2026年6月29日。
[1] An update on Amazon’s plans for Just Walk Out and checkout-free technology 大型食料品店におけるDash Cartの位置づけ、第三者店舗でのJust Walk Out展開方針。
[2] Amazon doubles down on online grocery delivery and Whole Foods Market expansion to reach more customers Amazon Go・Amazon Freshの物理店舗閉鎖とWhole Foods Marketへの転換方針。
[3] An inside look at the AI tech behind Just Walk Out Just Walk Outの仕組み、スタジアム等での利用イメージ。
[4] Just Walk Out technology locations near you 空港、スタジアム、大学、病院などの導入ロケーション一覧。
[5] Chicago Cubs | Know Before You Go Wrigley FieldのJust Walk Out対応セルフサービス市場、2026年シーズンの追加案内。
[6] How Just Walk Out technology delivers frictionless checkout experiences Lumen Fieldにおける顧客処理能力、取引数、売上に関する公開値。
[7] Titans to bring Amazon’s cashier-free markets to new Nissan Stadium 新Nissan Stadiumにおけるレジなし売店導入計画に関する報道。

